この記事は、2023/09/15 に公開した「Web Sustainability Guidelines(WSG)1.0 の紹介」の改訂版です。

Web Sustainability Guidelines(WSG)は、その名のとおり、ウェブに関連する製品やサービスをよりサステナブル(持続可能)にするためのガイドラインです。

ウェブサステナビリティに関連する取り組みや技術の領域は広範囲に及ぶため、このような包括的かつ体系的なガイドラインが存在することはとてもありがたく感じます。

WSG は、2023 年 8 月 30 日に、W3C のコミュニティグループ1によって最初のドラフトが公開されました。2024 年 10 月には、W3C の Sustainable Web Interest Group が設立され、ガイドラインが引き継がれました2

ちなみに、コミュニティグループ時代には、名称にバージョン 1.0 が付いていましたが、現在はバージョンが外れています。ドキュメントも再構成され、アップデートされ続けています。

なお、本ガイドラインは、現時点では Note Track の対象とされており、Standards Track の対象外です。また、2025 年 10 月時点では、Draft Note であるため、今後も内容が大きく変わる可能性があります3

ガイドラインは、Sustainable Web Manifesto の 6 つの原則が基盤になっています。

  1. Clean(クリーン)
  2. Efficient(効率的)
  3. Open(オープン)
  4. Honest(誠実)
  5. Regenerative(再生可能)
  6. Resilient(回復力)
Sustainable Web Manifesto のスクリーンショット
Sustainable Web Manifesto

2025 年 10 月時点では、92 のガイドライン、254 の達成基準から成り立っており4、ガイドラインは以下の 4 つのカテゴリに分類されています。

  • User Experience Design(UX デザイン)
  • Web Development(ウェブ開発)
  • Hosting, Infrastructure and Systems(ホスティング、インフラ、システム)
  • Business Strategy and Product Management(ビジネス戦略とプロダクトマネジメント)

また、各ガイドラインでは以下のレイヤーで構成されています。

  • Guideline(ガイドラインの見出しと概要)
  • Success Criterion(達成基準)
    • Testable(テスト可能)
    • Resources(参考文献)
  • Additional Information(追加情報)
    • Benefits(利点)
    • Reporting(GRI Standards
    • Example(例)
    • Tags(タグ)

Benefits のセクションでは、各ガイドラインに取り組むことで期待される効果が言及されており、以下の分野が含まれています(アルファベット順)。

  • Accessibility(アクセシビリティ)
  • Conversion(コンバージョン、SEO)
  • Economic(経済性)
  • Environment(環境)
  • Operations(運用)
  • Performance(パフォーマンス)
  • Privacy(プライバシー)
  • Social Equity(社会的公正)
  • Transparency(透明性)

ガイドライン全体では膨大な情報量ですが、見出しや概要を眺めるだけでも、ウェブサステナビリティで取り組むべき施策が把握できます。

ただ、そもそも、本ガイドラインはすべての項目の基準を満たすことを目的としておらず、完璧よりも進歩(progress over perfection)を目指すアプローチが推奨されています。これは、短いサイクルで継続的な改善を積み重ねることができるウェブの強みでもあります。

UX デザインや、パフォーマンス、ウェブアクセシビリティに関するガイドラインは、各分野における現時点でのベストプラクティスを統合したような内容で比較的理解しやすく、すぐに実施できる内容も含まれています。

一方、ビジネス戦略とプロダクトマネジメントに関するガイドラインは、制作現場の枠にはとどまらず、より広範に意思決定層を巻き込む傾向にあり、場合によっては組織や事業レベルでの方針転換が必要になります。

そのため、上から順を追って網羅的に見ていくのではなく、まずは、ウェブサステナビリティの概念や全体像を大まかに把握したうえで、実現可能な項目をピックアップしてから始めることが現実的だといえるでしょう。

以下、機械翻訳の力を借りながらですが、ガイドラインの見出しの日本語訳を列挙します。意訳や補足を含みますので、もし、誤りがあればご指摘いただけると助かります。

なお、Quick Reference for Web Sustainability Guidelines (WSG) では、達成基準を含んだ、より詳細なレベルのチェックリストが用意されています。


2. UX デザイン

3. ウェブ開発

4. ホスティング、インフラ、システム

5. ビジネス戦略とプロダクトマネジメント

サポートドキュメント

見出し「サポートドキュメント」

WSG は、サポートドキュメントやツールが充実している点からも、とても意欲的に感じられます。

Sustainable Tooling And Reporting (STAR)
サステナビリティをテストするための評価方法や、自動テスト可能(Machine-testable)なテクニック集
Resources for WSG
WSG のガイドラインを達成するための補足資料としてのリソースやツールの一覧
Web Sustainability Laws and Policies
ウェブサステナビリティに関連する法律、政策、標準、ガイドラインの一覧
Summary of Web Sustainability
ウェブサステナビリティの概要
WSG at a Glance
WSG の簡単な概要
Quick Reference for WSG
WSG のガイドラインのチェックリスト

さらに、GitHub リポジトリには、JSON API まで用意されています。

ガイドライン 2.1 のタイトルを取得する例
fetch('https://w3c.github.io/sustainableweb-wsg/guidelines.json')
  .then((res) => res.json())
  .then((data) => {
    console.log(data.category[1].guidelines[0].guideline);
    // Display any factors that have a negative impact on your project
  });

API 経由で、自由にチェックリストやコンテンツを作れるので便利だと思う反面、英語ベースなので、そのまま使える場面は限定されてしまうかもしれません。

この記事では、Web Sustainability Guidelines(WSG)を紹介しました。

ガイドラインに積極的に取り組むことで、環境への影響を軽減できることはもちろんですが、ウェブサイトやアプリのユーザビリティやアクセシビリティ、パフォーマンス、プライバシー、コンバージョン(SEO)、インフラのコストといった副次的な恩恵も期待できます。

また、アクセシビリティの確保と同じく、プロジェクトの初期から取り組んだほうが、後から改修するよりも大幅にコストを浮かすことができますし、もし関連する法令が施行されたとしても、スムーズに移行することができるでしょう。

すべてのガイドライン項目を満たす必要はありませんので、まずは自分になじみのある項目から取り組み、徐々に範囲を広げていくのがよいのではないでしょうか。

もし、何から始めればよいかがわからない場合には、以下の記事でウェブサイトを診断できるオンラインサービスを紹介していますので、こちらを試してみるとサステナビリティへの取り組みのヒントが得られるかもしれません。

脚注

  1. Sustainable Web Design Community Group

  2. Sustainable Web Interest Group is formed | W3C

  3. Types of documents W3C publishes | W3C

  4. Web Sustainability Guidelines (WSG) | GitHub